ファシリテーション・レジュメ

マニュアル教育と、ラーニング教育のアウフヘーベン

対立した考えではなく、統合を行うことが求められている

 

こんにちは。
toiee Lab 亀田です。

27歳から、大学で教鞭をとり、気づけば10年が経ちました。

思い起こせば、私にとって初めての授業では、「TA(授業支援の学生)と思っていたら、先生だったの?」という、どよめきが起こったことをいまでも覚えています。

あれから教育の世界を眺めていて、一つの危惧を抱いています。

それは、

ということです。

これは、義務教育や大学だけでなく、社内教育でも、毎日のように開かれるビジネスセミナーでも、「ハウツーに偏重する一方で、探求(学ぶ力)」は、置き去りにされ続けています。

私たちが利用するツールや知識は高度化し続けています。

もちろん、ツールも知識も「使いやすく」改良されたりしますが、それでも「高度化によって、年々難しく」なっています。

それにもかからわらず、高度化するツールや知識を理解し、咀嚼(噛み砕いて飲み込む)する能力を鍛える教育が、ほとんど提供されていません

この問題点に注目し、取り組んできたのが、 toiee Lab の活動です。

今日は、知識・ツールの構造と、学ぶことの関係について、ともに考えてみましょう。

マニュアル・ハウツーは悪なのか?

マニュアル教育という言葉がありますが、もちろん良い意味ではなく、「悪い教育」を揶揄して使われる言葉です。

しかし、マニュアル自体は悪ではありません。
むしろ、私たちの生活を劇的に変えた立役者 です。

マニュアルの起源は、科学的アプローチ

マニュアル化の始まりは、テイラーの科学的管理法です。彼は熟練工が、長年の経験と試行錯誤によって「無意識に」身につけた効率の良い作業の仕方を分析し、

をより分けて、仮説を立て、実験し、有用性を確かめました。例えば、一度にすくう砂の量は、どれぐらいが適当なのか?の仮説をたて、実際にやらせて見て、作業効率を計測しました。

このような「観察」「仮説」「実験」「定式化」の行為を「科学的アプローチ」と言います。

このことから、「科学的管理法」と名付けられています。そして、この科学的アプローチの結果生まれた「効率的な作業方法」が、マニュアルです。

科学的アプローチにかけていたもの

テイラー自身は、志のある人でした。科学的な分析によって生産性の向上が図られて得られた利益は、労働者のものであるという考えを持っていました。

当時は、プロレタリア(労働者) vs ブルジョワジー(雇い主)という階級闘争の考えがあり、いわゆる科学などの知識に触れられるブルジョワジーの中では、異端の考えだったと思われます。しかし、テイラーが行わなかったことで、とても重要なことが一つあります。

それは、「労働者は知性を有する存在で、彼ら自身に、科学的アプローチをさせること」です。

toiee Lab でいう「探求型学習」を、労働者たちに推奨することはありませんでした。

時代背景(基礎教育の未発達や、その他の分野の知識の体系化の未発達)から考えて、そこまでをテイラーに要求するのは酷というものです。

テイラーは、労働者を無能な人たちとまでは、思っていなかったかもしれませんが、「知性を有して、自ら科学的アプローチを行える人」とまでは、思っていなかったでしょう。

テイラーを発展させる必要がある

しかし、いまでも「無意識に、テイラーのように考えている」大人はたくさんいます。特に、教育分野にいるように思いますし、経営者に多いようにも思います。

それは、良かれと思って、そうしていることすらあります。

例えば、「自信をつけてもらいたいから、『とりあえず、指示をたくさんして結果を出させてあげる』」というアプローチは、その典型です。

さらに悪いことに、私たち一人一人が、このような社会的な雰囲気に飲まれて、「自分は、あまり考えることができない」と思わされています。

しかし、「考える」という行為について、科学的なアプローチを適用することによって、誰もが「知性を発揮できる」と断言できます。

中間まとめ

ここまでの主張をまとめると、以下の4点です。

このような考えのもと、私たちは研究と実践を続けてきました。

ロールモデルは世界の「トヨタ」

さて、「マニュアル化 x 科学的アプローチ(学習)」とは、どんなものでしょうか?

その一番のモデルは、トヨタです。

世界最強企業と言われたり、トヨタ・ウェイとして米国の大学で研究対象になったりすることの多いトヨタですが、彼らの強みの一つが「マニュアル化 x 学習」です。

トヨタ自動車工業(販売店ではありません)では、マニュアルにあたるものを「標準作業」と読んでいます。標準作業とは、先人が試行錯誤を重ねて「こうやれば良い品質で、素早く、労力少なく」製品を作れる作業の方法のことです。

この標準作業は「マニュアル」と言えるでしょう。

このマニュアルをとても大切にしていますが、ただ大切にして、守るだけでなく「積極的にカイゼン」することを奨励しています。

この積極的改善は、別の側面から見ると「エンパワーメント」と呼ばれたりもします。

新人でも提案ができる

新人が作業をする場合、標準作業を説明されます。これは、「マニュアル」を教わることと等しいです。しかし、一方で先輩がやっているように「標準作業のさらなる改善アイデア」を出すように奨励されます。

例えば、新人が「こうやったほうが効率がいい!」と言って、作業の仕方を変更したとします。すると、通常、そのような変更は「改悪」になることが多いです。

しかし、この会社では良くしようと取り組んだ末の改悪に対しては、

を説明しますが、同時に

「アイデアを出してみたことは、すごくいい。もっと出して行こう。このような問題が起こらず、より良くする方法を考えよう」

と奨励します。

このような文化があるからこそ、最強企業なのでしょう。

科学的アプローチの反対とは何か?

自分で考えて、実行して、結果を確認するというのは「まさに科学的アプローチ」であり、考えるという行為です。そして、この考える行為は、「学ぶ力」とイコールです。

このことを理解するには、「反対」を考えて見ることが大切です。

反対方向から考えると、物事はよく理解できます。なぜならば、私たちの理解とは「分かる」という字の通り、何かを定義することであり、それは「分ける行為」です。

さて、「科学的アプローチ」の反対とはなんでしょうか?

先に、科学的アプローチを「観察、仮説、実行、検証」と説明しました。これを欠いた状態ならば、科学的でないと言えます。

例えば、「マニュアルを意味もわからず、盲目的に繰り返す」と、観察せず、仮説もなく、実行だけ、検証は諸先輩方からの叱咤となれば、科学的アプローチの反対となります。

この場合、実行者は「自分の何が、どんな結果を生んでいるかわかりません」。

もし改善をして、改悪をしてしまったら「言うことを聞け、まだお前には早い」と抑圧する行為も、同様です。

仮説を立てるための情報すら得られなくなります。

観察、仮説、実験、検証は「学ぶ」であって、「学び方を学ぶ」ではない

さて、先の「科学的アプローチ」とは、まさに「能動的な学習」に他なりません。これなくしては、何も深く学ぶことはできません。

子供の頃から、ずっとこの「科学的アプローチ」で、あらゆることを学ぶことができれば、思考力は研ぎ澄まされ、あらゆる分野を学ぶ素地ができると思います。

しかし、これは「普通」です。

もちろん、「それだけでも十分じゃないか?」と思うかもしれませんが、私たちは「もう一歩先の状態」に進化することができます

それの状態を toiee Lab では、「メタ探求型学習」と呼んでいます。名前は仰々しいですし、説明すると難しいですが、体感することは簡単です。

具体的には、

だけでなく、

をすることです。

目の前の何かを学ぶ時に、「やり方」「ハウツー」を繰り返して憶えこむのではなく、自分なりに仮説を作って、検証するようにして学びながら、同時に、その「仮説の立て方を改善し、実験の仕方を改善し、検証する方法を改善する」ことが、メタ探求型学習です。

誰でもできるだけでなく、すぐに効果が出ます

このメタ探求型学習は、ワークショップでファシリテーションされれば、誰にでも起こりますし、簡単に起こります。

さらに「効果もすぐに」現れます。

例えば、toiee Lab 社員で知的領域のエースである「コウタ」は、ITに苦手意識があります。しかしながら、このメタ探求型学習を引き起こすファシリテーションを受けながら、アプリを学ぶことで、

「たった5分で、効果を実感」

しました。

本人が自分で驚くほど、上手く探求して、いろんな機能を発見し、飲み込んでいきました。

実際の様子は、「ITを学ぶ5つのステップ・ワークショップ」のビデオを見ていただければ、納得してもらえるでしょう。

なぜ、即効性があるのか?

ところで、「本当にそんな即効性があるの?」と思われるかもしれませんが、理由はいたって「当然」です。

なぜなら、私たちの脳の仕組みに沿っているからです。私たちの脳は、進化論的に考えて、フィードバック制御を発達させ、高度な知性を獲得しました。

フィードバック制御システムについては、深く解説しませんが、科学的アプローチとぴったりと構造が一致します。

だからこそ、私たちの脳の仕組みに沿っているから、即効性があります。

しかし、注意も必要です。

なぜなら、「このようなアプローチが習慣にはなっていない」のです。

義務教育に対抗する

メタ探求型学習は、義務教育課程でも、博士課程でも、どこでも明確に意識して教えられたことはありません。卓越した教師やメンターが行うアドバイスが、時々「メタ探求」をさせていることがあります。

一方で、PDCAサイクルのように見えて、メタなPDCAを回し、OODAなどを組み合わせているような人が無自覚に行なっていることが「メタ探求型学習」です。

私たちは、意識的に何度も繰り返したりしないと、習慣になったりしません。

したがって、「ワークショップで体験しても、家に帰ったら、あれなんだっけ?」となります。おそらく、このメールを読んだ後でも、「いい話だったな、でもなんだっけ?」となるでしょう。

わかりやすい説明は、時に希望を持たせますが、油断大敵です。分かったつもりでも、実際は自分のものになっていません。

自分のものにするには、まさに科学的アプローチが必要です

私たちは、「メタ探求型学習」を私生活、ビジネスのすべてで「実行」することでのみ、メタ探求型学習を会得できます。

別の見方をすれば、義務教育で習慣化された「盲目的に正解を繰り返せば、学べるという考え」を上書きするぐらい、「意識的に、意図的に」メタ探求型学習を繰り返すことが必要です。

ところで、会得し始める(習慣化する)とわかりますが、「会得完了」はありません。眼前に広がるものは、延々と続く道です。

この道が見えると、がっかりするよりは、「清々しく、楽しみ」となります。孔子の言葉が分かったように感じることでしょう。

といリブとは、何か?

ここまでの話をまとめると、2点になります。

  1. メタ探求型学習が、人類が到達した学習方法の最前線(のメカニズム)
  2. メタ探求型学習をものにするには、「ひたすらに取り組むこと」が必要

となります。

以上のような結論を、三年前に得ていました。

そして、やるべきことを決めました。それは、「あらゆるジャンルの教育を「メタ探求型学習を意識して」設計すること」です。

そうすれば、WordPressを学んでいる時、ジョブ理論を学んでいる時、SEOを学んでいる時に、メタ探求型学習で取り組むことができれば、

という状況が作れます。そのために、具体的なスキル、知識を次々と設計していくための理論や方法論を構築しました。

そして、それらの教育方法を、ワークショップの動画と進行レジュメとして、まとめたものが「といリブ」でした。

(新生といリブは、さらにオンライン学習を改善するために、もう一声を加えました)

最後に

健康が重要になった今、よりよく人生を送るには、一人一人が「医療」や「体の仕組み」を知る必要性があるのと同様に、私たちは「よりよく」なるには、学ぶこと自体について知っておく必要があります

そして、それは面倒なことではなく、自分について知ることになるので「楽しい」はずです。

私たちは「学ぶことが楽しい」という遺伝子、生物学的特徴を持っています。

私たちとともに「学ぶ楽しさ」を再発見できればと思います。



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