ファシリテーション・レジュメ

楽しさと、成果と、人間らしさの両立

「学ぶこと自体を楽しむことには、賛同するけど、成果を出せないと意味がない」という御意見を、方々から頂きます。

それに対して、私たちの回答は、ちょっと大胆です。

「学ぶこと自体を楽しむこと、成果を出すこと、人間らしさを大切にすること、人を尊重すること、かけがえのない学ぶ仲間を作ること。このすべてを一度に実現します」

これが、私たちの答えです。

この答えを「現実にするため」に、今も変わらず、新しい技術、ソフトウェア、学習理論などを探し求め、創造しているところです。

今日は、「どうやって?」を説明します。

4つのブレイクスルー

まず、一石二鳥どころか、もっとを狙っている要素を書き出します。

他にも、認知の発達や、自立して学ぶことや、具体的な知識や、メタ探求型学習を身につけることなど、まだまだあります。これらを一挙に手に入れるために必要なことは、以下の4つです。

4つの突破口(ブレイクスルー)が、私たちが探し求めてきた「これからの教育」を実現してくれます。

  1. FILMシート
  2. オンライン・チーム学習
  3. Slackコミュニティ
  4. オンライン自習室・お茶会

この4つによって、「忙しくても、楽しく、自立して学べるぐらいのレベル」に到達することが可能になります。

突破口1. FILMシート

私たちが何かを学べていない時は、単純に「学び方が、課題にフィットしていない」だけです。つまり、最適な学び方ができていないだけ、です。才能は関係ありません。

最適な学び方を決定する要因は、大きく分けて4つあります。

  1. 目標、課題のレベル(到達目標、その難易度)
  2. 学習者のレベル(現在の知識、スキル、経験)
  3. 学習者の特性(強み、弱み、認知特性)
  4. 学習者の環境(自由になる時間、仕事の種類など)

学習を生理現象(生物の基本的な機能の一つ、システム論的に捉える)として捉えると、学習は「期待する結果」と「実際の結果のギャップ」を認識し、次の行動を調整し、近づくことが可能な状態と定義できます。

要するに「こうなりたい。こうなっていたい」という目標があり、行動を起こして、「結果が理解できる」ことが、まず必要です。

例えば、大学の学期試験で考えてみましょう。大学の学期試験は7月末に行われます。もちろん、目標は「優」あるいは、良を取ることでしょう(あるいは、不可にならないことかもしれません)。そのためにやるべきことを考えて、実行します(つまりは、勉強します)。

では、その勉強方法、あるいは勉強方法を選んだ「前提」が正しかったのは、いつわかるか?というと、試験の成績がでたときです。もし、不可になっていれば、

と考えられます。そして、間違った場所を探して、次はこうしようと考えて、行動しているとき「学習」というラベルを貼り付けることができます。

ところで、試験の成績が「優・良・可・不可」の4段階でしか学生には提示されません。どこが間違ったのか、わかりません(あと謎なのですが、秀という評価があるのですが、これは学生には提示しません。優としてしか見えません)。

もし、学生に「どこが間違っていたのか、なぜ、この点数となったのか?」を細かく提示できれば、学生側は「次の計画を検討するための情報がより多く見れる」ようになります。

つまり、「期待する結果と、実際の結果」のギャップの大きさよりも、その粒度(細かさ)が学習には大切です。次の行動を思いつけて、しかも、良くなる確率を高められるような状況を生み出せることが大切です。

ちょっとオーバーロード気味かもしれませんが、話はここで終わりません。

人工知能の世界では、大学の試験のような状況で学習することを「教師あり学習」と呼びます。答えを知っている先生がいて、適切に間違いを指摘してくれる状況を言います。

教師あり学習において、学習の精度をあげるには「期待する結果と実際の結果差(人工知能では誤差と言います)」を学習が進むにつれ、相対化する必要があります。学習の初段階では「ざっくり」と誤差の差を作り、その後、学習が進むと「細かい誤差が大きく感じる」ようにすることが必要です。

ちなみに、私の専門はニューラルネットワークではなかったので、同僚研究者に上記の問題を提示しました。つまり、上記のことができていないから、精度があげられないよねと。でも、どうやって?はわからないんだよね。現在の仕組みだとできないね。その10年後、どうやって?を解決した方法が登場しました。それが、Deep Learning という方法です。本質は、上記のような「誤差の扱う粒度を変化(多段の主成分析を行うことによって)」させています。

もっとわかりやすい例で説明しましょう。

私の娘は現在四歳になったばかりです。英語で言う「by」の使い方の精度が低いです(だから、かわいんですが)。例えば、「私に、にいちゃんに、してくれない」と言い間違えることがあります。正しくは「にいちゃんが、してくれない」です。

それでも、主語、述語、目的語が登場し、細かく説明するように成長しています。この段階でなら、正しい言い回しを少しずつ教えることができます。

しかし、1年前に「に」「が」「を」を正しく指導しようとしても、早すぎるでしょう。いろんな言葉の概念を獲得し、単語を適当にならべて、相手に伝わることを楽しんでいる段階では、細かい表現を改善させようにも、「違いが判別できるほど、理解がない」のです。

このように私たちは、「ざっくりとした違い」から学習が進むにつれ「細かい違い」を認識できるようになり、「細かい違いというフィードバック」が得られることで、行動を変更できるようになり、学習が進みます。

つまり、学習を効果的に行っていくには

を調整する必要があります。優良可では学習ができないなら、もっと細かく情報が得られるように課題を調整したり、やり方を変えなければなりません。

現代教育は、一応、上記ほど明確に学習を定義していませんが、理解はしています。その理解のあまさ故に出した結論が「細かいステップ」です。細かいステップを用意し、そのステップを一つ一つこなして(合否判定して)進んでいくことで、何かを学ばせようとしています。

例えるなら、幼児が言語を獲得するプロセスに大人が介入して「まずは、正しくママとまんまの使い分けができるまで、次の言葉には進ませないぞ」とするようなものです。もし、こんなことをしたとしたらどうなるかは、結果は想像がつきますね。

そう、子供たちは楽しくなくなります。そして、学ぶ力がなくなります。なお、使い分けを指導しようにも、言語が通じないので、かなり苦労すると思いますが・・・。

つまり「段階を細かくして、チェックする」というのは、人間の自然な発達にはそぐわないということです。私たちの脳機能は、そのようにできていません。

では、どうするか?

「動的平衡」という考え方をもって、学習をコントロールします。別の言い方をすると、固定的なステップ(静的)ではなく、自己組織化するようなシステムとして、学習をコントロールします。

難しいことをごちゃごちゃ書いていますが、FILMシートを書き続ければ、上記のややこしい話を実現することができます。なお、FILMシートでなければならないわけではありません。FILMシートの要素が実行されていれば、方法は何でも良いです。

ちなみに、私はFILMシートを書いてません。そのかわり、日記、タイマーアプリ、ToDoアプリ、ノートアプリを活用しています。

なんにせよ、FILMシートを書き続けること(振り返りもセットです)+ 適切な運用をすることで、学習に大きなブレイクスルーがもたらされます。

8ヶ月のスクラムでは、FILMシートを書くことを推奨しましたが、強制力はありませんでした。また、書き続ける体験が「孤独」でした。書く人は書く。書かない人は書かない。そして、シェアもSlack(プライベートSNS)にアップするだけでした。

もっと楽しくて、成果につながるようにするために、新スクラムでは「ワークショップを2時間にのばし(前後15minずつ)、FILMシートを書く、振り返る」ように変更しました。

これによって、孤独ではなく、チームで、楽しく、発見の多い「メタ探究型学習」が可能になります。

突破口2 : オンラインチーム学習

先のFILMシートのところで説明しましたが、「何かをうまく学ぶには、学び方を工夫し、調整すること。しかも、ずっと・・・」を行うことを通じて、「学び方に注意を払う」ことが自然な状態になることが必要です。この状態をLQ+2 と呼んでいます。

私たちにとって「学習(ここでは、学校の勉強のことではないです)」は、自然なことです。無意識に行われる行動です。例えば「私のもの」「私が」「私に」という「自我」は、成長の段階で自然に発生します。結果、この「自我そのものを意識する」には、もう一つ上の段階の意識になる必要があります。

発達心理学的な言葉を使えば「認知能力の向上」が必要です。

『「私の」「私が」「私に」という思考は、幻想である』と言い切るとスピリチュアル系の教えになりますが、そこまで強烈に思わなくても、「思考のパターンの一つ」として、捉えるような意識状態になると、いわゆる「エゴ(自己同一化)」による失敗を減らすことができます。

ここで重要なことは「自然に発生した自我」を認識するには、一つ上の認識レベルに到達する必要があるということです。この部分に到達するには、

が必要になります。

学習で言い換えれば、

これが必要です。

一人でこのようなパターンを見つけるには、相当苦労しますが、チームなら容易で楽しくなります。なぜなら、様々な学び方を目にすることができます。また、お互いに「理解しあおう」とすることを通じて、自分の考えがよく整理されます。

これが「チーム学習」の最大の良さです。

チーム学習でもっとも重要なことは「お互いの話に、耳を傾け、深く理解する」ことです。それぞれが違う言葉で、違う経験で「同じものを指す」状態や、同じような言葉、同じような経験をしているにもかかわらず、違う認識に至っていることに気づくことを通じて、「自分の考えていることが良く理解できる」ようになります。

このような経験をこれ以上、言葉と論理で説明しても、難しさが増すだけですが、ファシリテーターがいるチーム学習では、お互いの言葉に、もっと耳を澄ませることが促されます。そして、認識レベルが向上し、問題がどんどん見えるようになります。

ちなみに、発達の段階を登れば登るほど、問題解決能力は高まります。エゴに支配され、それに気付けていない人よりも、多元的な視点、知性を持っている人の方が、問題を多く解決できます。また多元的な視点を超えて、いわゆる統合的な知性を発揮できる人の方が、多くの問題を解決できます(研究で明らかになっています)。

スクラムの教材は「チーム学習」を意図して設計されています。そして、今回の8ヶ月のスクラムを通じて、設計が進化しました。現在の新しい設計方針を、私たちは「クリエイティブ・チーム・ラーニング」と呼んでいます。

以前のものよりも「創造性」を発揮する余地を持たせて設計しています。

突破口3 : Slackコミュニティ

FILMシートも、オンラインチーム学習も「ワークショップ中」に行います。何かを学びたければ、もっと時間を投資しなければなりません。つまり「継続的に学ぶ」ことが必要です。

FILMシートを書くことで、継続的な学習の計画、モチベーションを引き出せますが、まだ足りません。

楽しくて、病みつきになるものが必要です。それが「コミュニティ」です。SNSの登場は、多くの負の側面が指摘されていますが、「じゃあ、無くしてしまえば良いか?」といえば、そうではありません。確実に私たちの生活を向上させてくれる重要なツールです。

SNSはインターネットの歴史において、大きな転換点の一つだといえます。このSNSをもっと有効に使う方法が、Slackコミュニティです。

ワークショップの後の感想を投稿したり、今取り組んでいることを報告したり、困っていることを質問することを通じて「ラーニング専用のSNSに中毒になる」ことで、継続学習がしやすくなります。

わかりやすくいえば、「真剣に学ぶ友達と仲良くなること」には、害はなく、よい効果がたくさん期待できるということです。それを実現するのが「Slackコミュニティ」です。

Slackは世界中で使われている「オンラインで効果的に会話」できるツールです。競合ツールが次々とでてきますが、Slack一人勝ちと言ってよいでしょう。無意味に高度化したり、高機能化するのではなく(Microsoft Teamは複雑化して使いづらい)、シンプルさを維持しながら、改善しています。このツールを使えば、遠く離れた人と、時間差も気にせず、コミュニケーションすることが可能になります。

このコミュニティツールの効果は絶大です。

突破口4: オンライン自習室、お茶会

散歩中にアイデアが湧くように、私たちが「パターン」を発見したり、新しい気づきを得るときは、往々にして「主題とは違う、脇道」で起こります。

ナレッジマネジメントやポランニーの言葉を借りれば、「フォーマルなワークショップによる知識獲得は「形式知」」であり、「インフォーマルな自習室、お茶会による知識獲得は「暗黙知」」です。

ファシリーテーターや、参加者同士で勉強会したり、勉強すら放棄して(笑)ただ喋る場所では、様々なヒントが得られます。時には、過去の経験から言語化できていないヒントや、教材化するまでに至らないが、重要な知識のやり取りが行われます。

オンライン教育や学校教育では「暗黙知」に注意を払っていません。しかし、私たちが飛躍的な成長をするには「暗黙知」が欠かせません。それを補っているのが、自習室であり、お茶会です。

これからのスクラム

難しいことを、ごちゃごちゃ書きましたが、受ける側がすることは、シンプルです。

だけです。

これから、たくさんのスクラムを開催します。それらには、上記の最新の結論を盛り込んで実行します。結果、一挙複得が可能だと思います。

お楽しみに。