学びの経路
具体的スキルの習得 vs 学び方・姿勢のどちらを取るのか?
学習経路のマトリクス
toiee Labは、在野の研究所です。より実践的な研究を行うために「一般のお客さんに授業を提供することを通じて、研究をする」アプローチを採用しています。
現場で直面する課題の一つが「具体的スキル vs 学び方・姿勢」どっちを取るか?の対立構造です。
この記事では、この対立構造について解説し、具体的に「どのように設計することが望ましいか?」について解説します。
興味深い現象
これまで、何人もの人に質問してきたことがあります。それは、
「本当のところ、あなたは「どっちの学習経路」を進みたいですか?」
です。例えば、「あなたは、本当のところ「WordPressを学ぶ姿勢」を学びたいのでしょうか?それとも、「手っ取り早くWordPressで、そこそこのサイトが作れるようになる方法」を知りたいのでしょうか?」と質問します。
すると、大抵の人が(もの付きでない限り)
「手っ取り早くWordPressでサイトを作る方法を学びたい」
と答えます。あるいは、正直に「本当は姿勢が大事だとは思うんですが、忙しいので時間が取れません。とりあえず、できるようになりたいです。それから、学び方を学ぶか考えます」と答えてくれます。
部下や子供には、どっち?
一方で、部下や子供に受講させるなら、どっちが良いですか?と質問すると、その答えはほぼ全員が「学び方、姿勢」と答えます。理由を尋ねると、
「本質的なことを学ばないと、先がない」
「仕事で高いレベルに行ってもらうには、学び方、姿勢が大事」
だからと回答します。
以上のことを、わかりやすくまとめたのが以下のマトリクスです。
学習経路のマトリクス
受講者の立場から見ると、2つの経路が存在するように見えます。これは、「講座を設計する側」も同じです。
先生も、どちらを取るか悩む
私たちが接する先生たちも、どちらを採るか悩みます。例えば、
- 「学ぶ姿勢、学び方が大切だとは思うんです。でも、生徒が望んでいません。正確に言えば、生徒が良さを理解しません」
- 「とりあえず、手っ取り早くと要求されます。だから、toiee Labのような設計ではなく、『できるようになった実感』がある講座が欲しいです」
など言われます。
このような悩みは、もちろん、私たち toiee Labも日々、格闘します。しかしながら、学習のメカニズムから考えて言えることが3つあります。
- 具体的なスキルを身につけながら、学ぶ姿勢を学ばせることは可能
- 「とりあえず」レベルでも、メタ探求すると生産性が向上する
- そもそも「学ぶ意欲」がないなら、問題は別にある
以下、詳しく説明します。
具体的スキルを通じて、学び方を学ばせる方法
私たちは、「具体的スキル vs 学び方」という対立構造を乗り越えるために、WordPressボトムアップ講座を設計したことがあります。
この講座は、
- 自他共に認める「IT苦手」「WordPress挫折組」で
- 「とりえず」必要十分なサイトが作れるようになればいいと思っている
- その方法だけを教えて欲しい
という顧客を対象としました。実際、募集するときも「上記のような受講者」を集めるように販売を組み立てました。
つまり、悪く言えば受講者は、
- 学び方を学ぶ気はない
- 講座が終わったら、具体的な能力を持ち帰ることを期待している
- たくさんの応用可能な知識より、明日から使えるスキルが欲しい
という「いますぐに」という受講者です。
具体的なハウツーに分解する
この講座設計では、「具体的なハウツー」をピックアップしました。例えば、「WordPressの汎用的なテーマを使う前提」で設計しました。さらに、こちらで選んだプラグインを用意しました。
- 正解の「テーマ」
- 正解の「プラグイン」
- 正解の「使い方」
を用意しました。そして、テーマの使い方も、細かく分解し、マニュアルが作れるレベルに分析しました。
そして実際に「マニュアル」あるいは「目の前で、使い方のデモ」を行います。私たちの用語でいう「ティーチング」を行える状態にまで持っていきます。
ところが、「ちょとした工夫」で、「学び方を学ぶ」ことができます。
デモンストレーションを工夫する
いくつかポイントはありますが、「デモンストレーション」を工夫します。わざと「早く操作」します。いちいち、細かく、ここをクリックして・・・と説明するのではなく、全体像を説明しながら、どんどん操作します。
そして、「もう一度、操作してみますね?」と伝えて、もう一度操作します。このとき、「覚えようとしないでください。なんとなく、こんなことができるんだと知る程度で理解してください」と伝えます。
メモをしている人がいたら、メモを取らないように指示します。
そして、実際に操作してもらうときに、「ITでラーニングするための5つのステップ」を渡して、それに従って「狭い範囲の操作」を行なってもらいます。
これによって受講者は「具体的な操作を覚えるつもりが、ラーニングを開始している状態」になります。
このように「あえて狭い範囲」を設定して、その狭い範囲を「ラーニングのプロセス」でアプローチするような講座設計を行います。
これを何度も繰り返しながら、徐々に「大きなサイズの探求」に進むように設計することで、
- 具体的かつ
- ラーニング的アプローチ(自分で学ぶ方法)
を同時に実現することができます。
「とりあえず」の人に対応する方法
以上のように「超具体的」なノウハウに落とし込んだものを、メタ探求型で「なぞっていく」プロセスを設計することで、「とりあえず」という要求に応えながらも、今後に役立つ「学び方の姿勢」を学ばせることが可能です。
まとめ
- 「具体的スキル vs 学び方・姿勢」の対立構造は、解消できる
- 一つの方法が「具体的スキル」を「FILM^2」アプローチで学ばせること
- そのためには「具体的スキル」を細かく分解し、学ぶ順番を組み立てる
- 順番は「小さく単純なことから、大きく複雑なものへ」とする
- 小さく単純なことでも、FILMサイクルを引き起こすように設計する
是非、参考に「より良い学び」を提供してください。
追伸: 設計における誤解
多くの講師、先生から「toiee Labのアプローチはいんだけど、とりあえずに応えられない」と言われることがあります。
toiee Labで、手がけてきた講座が「抽象的」なテーマが多く、「それぞれの人の結論がある」講座設計が多かったせいだと思います。
このような背景から、「正解が決まっているものは、ラーニングアプローチは取れない。やっても無駄」と思っている講師の方や、LFT(ラーニングファシリテーター)の方が多いです。
このことに対する反論はとても簡単です。
この続きは、「インターネットの仕組み講座」を例に、書きたいと思います。