マイクロ・ヒストリーと学習
技術や知識の体系を知る方法
“A macro shot of the nib of a fountain pen with letters etched into it” by MJ S on Unsplash
私たちは、学校で「歴史」を習います。
学校教育、そして塾での「歴史」は、もっぱら出来事を記憶し、即座に想起するための訓練をします。もう何十年も変わっていないように思われます。
一方で、多くの人が大人になってから「歴史ミステリー」「大河ドラマ」「時代の変遷のドキュメンタリー」を楽しみます。知的娯楽として「歴史」は、大いに消費されています。
つまり、
- 学校教育の歴史は「退屈」で「覚えるべき」もの
- 大人になって自由に学ぶときは、「知的好奇心を刺激するもの」
と、全く正反対です。このギャップは、一体なんでしょうか?
歴史とは何か?
私たちの「知的好奇心」を刺激する歴史とは、
- 様々な要素間の因果関係と相互作用の「時間的推移」
- 全てを完全に説明できないほどの「複雑さ」を持つもの
- 複雑がゆえに、様々な視点で捉え、様々な発見、気づきを得られる対象
です。
大河ドラマ、歴史ミステリー、壮大な歴史物の映画が人気な理由は、この「捉えきれない性質」により、個人の考え、視点、価値観、発見が反映できるからだと思います。
学校教育は「長い時間」の歴史しか扱わない
ところで、学校教育では「長い歴史」のみを扱います。江戸時代は300年近く続いたにもかかわらず、あっと言う間に授業では過ぎていきます。さらに、江戸時代を
- 歴代の将軍の順番と、重要な(目立つ)政策を記憶する
ような歴史の捉え方をします。
しかしながら、この江戸時代には、三井家や滋賀の長浜周辺の商人たち発案による「近代マーケティング」が生み出されています。
それまでは、職人が作ったものをただ販売していたのが問屋、商店だったところ、「問屋、商店側が、職人に仕様を伝え作るものを要望する」というマーケットインなプロダクト作成を行いました。
さらに、ブランディングに近いような(傘を使った広告宣伝など)ことまで行われています。他にも、様々な「道具」「技術」「仕事の仕方」「制度」が生まれ、改善され続けています。
このような「技術史」しかも、「短いスパン(といっても、20年、30年程度の長さはある)」の歴史を学ぶ機会はありません。
これは、とても「もったいない」こと です。
技術史を知れば、自然に覚えられるし、構造が理解できる
例えば、世界で最も使われていて、最も長い時間利用されている「アプリ」があります。それは、Webブラウザです。今、あなたがこの文章を読んでいるアプリ(Mediumアプリであっても)は、ブラウザです。
このブラウザの歴史を調べると、様々な発見があります。
今は、便利な時代です。インターネットで、10分から15分ほど調査すれば、以下のような資料を見つけることができます。
出展 : Mozilla ブログより CC-BY-NC
この年表に記載されている人名や用語を調べることも簡単です。例えば、「ティム・バーナーズ・リー」を調べると、TEDの動画まで出てきます。
次々と、いろんな話を集めて、整理していくと「インターネットが生まれて、Webサイトが立ち上がり、ブラウザが生まれ、Microsoftが貢献し、そして停滞をもたらし、それを打破するモバイルと言う別分野のイノベーションの作用」を見ることができます。
ブラウザの歴史全部を知ろうとすると、苦労をしますが、それでも「2限分ぐらい使えば、かなりのことを調べ、整理し、発表できるまで」たどり着くはずです。
実際にやってみればわかりますが、ブラウザの歴史を調べ、整理することで「知識や技術の構造」がわかります。
なぜなら、知識や技術の歴史は「ある特定の課題を解決するために生まれ、そして目的を達成し続ける結果、次の問題が生まれ、また新しい知識、技術が生まれると言うプロセスの連続」だからです。 これは、そのまま「知識や技術の構造」でもあります。
Javascript について調べてみる
このことを実際に確かめるために、研究所内で以下のような実験を行いました。
まず、プログラミングについては全くの素人を集めます。次に、その人に「javascriptの概要」を説明します。説明したのは「ブラウザに使われていること、とても重要なプログラミング言語になった。でも、昔は重宝されていなかった。最近は、様々な用途に使われている」程度の簡単なものです。
次に、この人に「たくさんの質問」を出してもらいます。たくさんの質問を出した後、次々と質問を解決するように調査をしてもらいます。途中で、調査を止めて、調査の仕方を振り返るという FILM2学習理論のお得意のパターン を行います。
こうやって20分から30分程度の調査を行い、発表に臨みます。
実際に発表を行った後、Javascriptとは「どんな技術なのか?」について考えてもらうと、かなり正確な理解をしている状態になります。
そして、何よりも重要なことが「javascriptについて興味をもち、アンテナがたった状態」になる ことです。
その結果、苦労しなくても覚えているし、調べ切らなかった「問いの答え」が目の前に現れれば、キャッチできる状態になります。
マイクロ・ヒストリー
私は、壮大な歴史と比較して、短いスパンの技術史、知識の変遷の歴史を「マイクロヒストリー」と読んでいます。ワークショップ設計を行う場合、知識の構造分析を行うのですが、この「マイクロヒストリー」を調べることは、大いに講座設計の知識整理に役立ってくれます。
また、現代教育において重要なことは、 「誰かが調べ上げて、おもしろおかしく話してくれるマイクロヒストリーを受け取るだけでなく、自ら調べることを学ぶこと です。
学校の先生が面白く話すだけでなく、自分たちで調査し、発表し、議論し、新しい発見をする「知的ワクワク」を味わってもらうことこそ、現代教育に求められていることです。
この「マイクロヒストリーの調査と発表」という考え方、アプローチはどの分野でも使えます。年代も問いません。
例えば、小学生なら、小学生なりに調べれば良いのです。電車が大好きなら、電車について調べれば、もっと電車が好きになるし、電力について学ぶ、アンテナが立つようになるでしょう。そのうち、電線について調べていると、最終的にはファラデーにたどり着くかもしれません。
ファラデーに辿り着いた後、もしかしたら「ロウソクの科学」に興味を持って、自然科学の世界に進むかもしれません。
同様に、電車の鉄橋などに興味を持つと、土木系に進むかもしれませんし、電車の運行に興味を持てば、マネジメントに進むかもしれません。
関西であれば、小林一三に興味を持つ子供が出てくるかもしれません。その子は、社会イノベーションを志向する、偉大な起業家に育つかもしれません。
まとめ
あなたが、何かを学ぼうと思っているなら、その分野の「技術」「知識」のマイクロヒストリーを調べてみましょう。あまり目的を定めず、好奇心に導かれて進むのが良いでしょう。
そうすれば、スポンジのように知識を吸収できる状態が作れるでしょう。
そして、あなたが教師、指導者なら、「学習者自身に、調べる楽しさ」を伝えて、実際に実行させてください。共に多くを学べるはずです。
編集あとがき
toiee Lab では、「毎日、価値ある記事」を出そう!ということで、担当を決めて記事を出しています。今日は、私の番なのですが、忙しくて時間がないので「手軽にかけるトピック」を選びました。
今後は、もう少し時間をとって「学習理論」について、書きたい思っています。